「公務員には労働基準法が適用されない」ということを聞いたことがあるかもしれないが、それは正しくない。以下に詳しく説明していく。
まず、「国家公務員に労働基準法は適用されない」というのは概ね正しい。
国家公務員法
第二条 国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ。
附則第十六条 労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)、労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、船員法(昭和二十二年法律第百号)、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)、じん肺法(昭和三十五年法律第三十号)、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和四十二年法律第六十一号)並びにこれらの法律に基いて発せられる命令は、第二条の一般職に属する職員には、これを適用しない。
しかし、一般職に属する職員のみである。
対して、地方公務員はどうだろうか。
地方公務員法
第五十八条
3 労働基準法第二条、第十四条第二項及び第三項、第二十四条第一項、第三十二条の三から第三十二条の五まで、第三十八条の二第二項及び第三項、第三十八条の三、第三十八条の四、第三十九条第六項、第七十五条から第九十三条まで並びに第百二条の規定、労働安全衛生法第九十二条の規定、船員法(昭和二十二年法律第百号)第六条中労働基準法第二条に関する部分、第三十条、第三十七条中勤務条件に関する部分、第五十三条第一項、第八十九条から第百条まで、第百二条及び第百八条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第六十二条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、職員に関して適用しない。ただし、労働基準法第百二条の規定、労働安全衛生法第九十二条の規定、船員法第三十七条及び第百八条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第六十二条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法別表第一第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員に、同法第七十五条から第八十八条まで及び船員法第八十九条から第九十六条までの規定は、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)第二条第一項に規定する者以外の職員に関しては適用する。
労働基準法の一部が適用されない。言い換えればその一部以外は適用される。
このうち重要なのが、労働基準法第二条が適用されないことと、同三十七条が適用されることである。
労働基準法
(労働条件の決定)
第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
○2 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
ちなみに労働契約法にも公務員の適用除外が記されている
労働契約法
(適用除外)
第二十二条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
労働契約法の施行について ※厚生労働省労働基準局長通知
2 適用除外(法第19条関係)
⑴ 国家公務員及び地方公務員(法第19条第1項関係)
法は労働者と使用者との間において成立する労働契約についての基本的規範を定めるものであるが、国家公務員及び地方公務員は、任命権者との間に労働契約がないことから、法が適用されないことを確認的に規定したものであること。
公務員は労働者と使用者の立場での労働契約はしないということとなる。なぜなら「国家公務員及び地方公務員は,採用の法的性質が,公法上の勤務関係について相手方の同意を要する行政行為(任用)と解されている」から。つまり、対等な契約行為ではなくて、自治体側が行政行為として採用することを決め、それにその人が同意した場合に成立するという形をとる。これは条例などで勤務条件については定めているから、当事者同士で勝手に契約内容を変えたりされると困るし、変える必要もないということなのだろう。
労働契約ではないと解することによって、非正規職員の雇用期間の問題もあるようだがそれは今回立ち入らないこととして、労働契約ではない、採用について対等な関係を持っているわけではないというのが公務員独自のあり方である。しかし、労働契約とする説もあるので今後どうなるかはわからない。
また地方公務員は労働基準法第三十七条が適用されるため、当然だが時間外の割増賃金は支払わなくてはならないし、支払われなければ労基署に訴えて良い。ネットでできないと言っていることが見受けられるが、できる。
ただ実際そのような場合は、まずその自治体の労働組合に相談した方が良いだろう。
◯参考文献
なぜ国家公務員には労働基準法の適用がないのか
労務安全情報センター(国家公務員・特定独立行政法人の職員・地方公務員と労働基準法の適用)
労働契約法の施行について
Q&A よくあるご質問 労働契約法 | 弁護士法人 淀屋橋・山上合同(法律事務所)